【私の町のちいさなふるい私設図書館⑦】江北図書館4つの魅力

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 歴史が詰まった図書館を後世に繋ぐため、新たに動き始めた「江北図書館」。たくさんの課題がある中で、平均年齢が約20歳若返った新理事会は「図書館の存続を応援してもらうためにも、若い世代に図書館の魅力を見直してもらえるきっかけを作ろう」と考えました。そこで、私たちは江北図書館の魅力を次の4つの柱で捉え、発信することにしました。

 一つ目は、創設者杉野文彌さんの「故郷の若者の学びのために」という思いが地域で引き継がれて今日まで存続してきたという物語です。久保寺容子館長を中心に江北図書館の歩みを物語で紹介する紙芝居『おばあちゃんの魔法のつえ』を制作。副理事の平井和子さんが参加する読み聞かせグループ「木のポン」の力を借りて、市内の公共施設や学校などで読み聞かせ会を始めました。

図書館の成り立ちを物語にした紙芝居「おばあちゃんのまほうのつえ」



 二つ目は、洋風のレトロな建物です。目を引くアーチ形の4連の窓、一歩館内に踏み込めば板張りの床。昭和ガラスの建具や昔ながらの木製の下駄箱。「ありのままの昭和の世界観が良い」と利用者からも人気です。しかし、資金不足などから手入れが行き届かず、床が抜けたり、雨漏りする箇所も。本業は内装業社長の岩根卓弘理事長を中心に、「まずはできる事から」と小修繕や掃除、不用品の処分を地道に始めました。協力を呼びかけた清掃活動には、市内外の延べ60人以上が参加してくれました。
 昨年4月には、市内の学校司書らが声を掛け合って「江北図書館ファンクラブfun」を結成。大広間でギターやサックスの演奏会を主催し、多くの人が演奏とレトロな図書館の雰囲気に酔いしれました。


 三つ目は、先人たちが守ってきた地域の資料群です。長浜市の元学芸専門監で副理事の太田浩司さんが、明治期の地籍図と見比べながら実際に地域を歩く催しを開催。古文書を活用して地域の歴史を紐解く歴史教室も始めました。市内外の歴史ファンに大人気で、毎回好評を博しています。



 四つ目は、大正時代からの本が並ぶ一般書架です。公設の図書館が設立される前から存在する江北図書館には、一般的な図書館ではとうに除籍されたような本も多く残ります。本業は古書店主の久保寺館長は「大正、明治、昭和、平成、令和と5世代が同居する書架はここならではの魅力」と力を込めます。
 また、検索機もないので探したい本がすぐに見つかりません。でも、久保寺さんは「この図書館には目的を持たず、散歩するように書架を巡る愉しみがある。本との偶然の出会いにワクワクできる」と言います。こうして、2020年度は1570人だった利用者数は、2021年度は2058人に、2022年度には3579人となり、関心の輪を広げる試みは地道に実を結びつつあります。

<⑧へつづく>…この連載は、朝日新聞滋賀県版に掲載されたものを修正して投稿しています。

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この記事を書いた人

丘峰喫茶店/出版社能美舎

1986年生まれ、埼玉出身。新聞記者として神戸、佐賀、滋賀に赴任し、2016年退職。同年8月、がんを患い寝たきりとなった友人から、聞き書きした旅行記『「がん」と旅する飛び出し坊や』を制作したことがきっかけで版元に。長浜市へ移住後に喫茶店を開店。1児の母。

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