【私の町のちいさなふるい私設図書館①】「郷里の青年に勉学の機会を」創設者の想い

 2022年11月、長浜市木之本町の公益財団法人「江北図書館」(こほくとしょかん)が、講談社の第4回野間出版文化賞特別賞を受賞しました。滋賀県では現存する最古の図書館であり、個人が設立して100年以上ものあいだ地域住民が運営を続けてきたことが、他に例を見ないなどとして評価されました。

江北図書館外観=山内美和子撮影

 私も前年度から理事の一人として、図書館運営に関わってきました。受賞の知らせを受けた時には、「片田舎の小さな古い図書館になぜそんな大きな話が?」と理事一同とっても驚きましたが、改めて次世代へこの図書館を繋げていきたいと気持ちを強くしました。

江北図書館2階。アーチ形の窓が絵画的でお気に入り。=山内美和子撮影

 私が木之本に移住したのは2016年。仮住まいのつもりだったこの地に定住することにした決め手のひとつが、この図書館の存在でした。三角屋根にアーチ型の4連窓、年季の入った木製の看板。一歩中に入れば「ギギギ…」と音を立てて開く旧式の下駄箱。板張りの床は歩くたびに少し軋みます。昭和へタイムスリップしてしまったような世界観に胸がときめきました。

 でも、何より心惹かれたのはこの図書館を守り継いできた人々の物語。創設者は、伊香郡余呉村(現長浜市余呉町)出身の弁護士杉野文彌(すぎの・ぶんや)(1865~1932)。杉野は滋賀県師範学校を卒業後、弁護士を目指して上京した東京・御茶ノ水で始めて図書館に出合います。本はとても高価で、学生や一般人が本を買うことは難しかった時代です。感激した杉野は毎日そこへ通いつめ、司法試験合格を果たしました。この経験から、杉野は「郷里の青年たちにも勉学の機会を与えたい」と私財を蓄え、1902年、余呉町に「杉野文庫」を開設します。
 開館当初の蔵書は約3千冊。杉野の手記には、「芝居を見たり、車を刈ったり、飲食をしたりするのを一切しないで、三冊、五冊、と本を買い集めた」とあり、夢を叶えようと尽力した杉野の切実な思いが伝わります。その後、文庫は木之本に移転し、その思いに共鳴した地元名士や伊香郡の協力を得て、1907年に「財団法人江北図書館」は開館しました。

<②へつづく>…この連載は、朝日新聞滋賀県版に掲載されたものを修正して投稿しています。

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この記事を書いた人

丘峰喫茶店/出版社能美舎

1986年生まれ、埼玉出身。新聞記者として神戸、佐賀、滋賀に赴任し、2016年退職。同年8月、がんを患い寝たきりとなった友人から、聞き書きした旅行記『「がん」と旅する飛び出し坊や』を制作したことがきっかけで版元に。長浜市へ移住後に喫茶店を開店。1児の母。

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