大人になって見る『ドラえもん』への戸惑い
5歳の息子はAmazonプライムで、よく映画ドラえもんシリーズを観ている。最近は、検索窓に「ドラえもん まだみていないやつ」と入れて検索しているのをわたしの母が目撃したらしい。デジタル・ネイティブに慄いていた。新作が公開されるというのも、Amazonからお知らせを受けた本人から「かあちゃん、これ映画館でみたい」と直訴があった。
そこで早速、3月公開になった『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』を息子と観てきた。
わたしも子どものころからドラえもんが大好きだった。漫画も全巻集めた。でも、母親になり、息子と観るドラえもんには、入り込めずにいる。
ぬぐえない違和感。それは、おならを許されるのび太とジャイアン。
今回の映画にもその違和感はついてまわった。
例えば…
・のび太の教室の女の子がみんなスカート。しずかちゃんも、メインキャラクターのおんなのこも。学校の音楽の先生も、のび太のママも。ほとんどの女性キャラがスカートだった。赤ちゃんを抱っこしてあやすお母さんが、ズボンだったかな。
・のび太、ジャイアン、スネ夫のランドセルは黒。しずかちゃんは赤。
・のび太のママは相変わらずエプロン姿。居間で昼ドラをみて泣いたりしている。のび太パパも相変わらず、仕事から帰ってきたら椅子に座っている。
・縁側で演歌を歌う着物姿のおじいさんのそばで台所仕事をしているのは、娘(おそらく)。その孫娘?も途中で登場。2人でおじいさんのことを「まだまだ大丈夫そうね」と心配したりする。
・キーパーソンとなるロボット達がみんなおそらく男性性。
・劇中、ジャイアンやのび太がおならで音を奏でるシーンがある。
・しずかちゃんの「がんばって!のび太さん」の立ち位置変わらず。のび太、スネ夫、ジャイアンは、それぞれ能動的に活躍するシーンがあるが、しずかちゃんにはなかった。
※注:5歳と一度だけ見ただけなので私の思い込み、妄想で記しているところもあるかもしれません。
やっぱり、性別的役割が気になりすぎて、ストーリーに集中できない。特に「しずかちゃん」に期待されている女性的役割がしんどい。可愛くて優秀なのに、いつもちょっと控えめ。のび太やジャイアンやスネ夫を立てて出しゃばらない。できないのび太を「だいじょうぶ?のび太さん」「のび太さん、がんばって!」と励まし続ける。のび太やジャイアンがおならで音を奏でても、しずかちゃんはおならをしない。おならを人前でする行為は生理的に仕方ない、でも、男でも女でも行為自体は”恥ずかしい”んじゃないか。それを「男」なら恥ずかしいけどネタにできる、許される、みたいな雰囲気でてないか?
…総じてなんか、しんどい。
昭和を卒業しよう。現代の国民的アニメを育てよう。
もう令和も6年だ。クドカンドラマ「不適切にもほどがある」の昭和男が話題だが、平成だって長かったのに、まだ同じアニメが国民的人気、というのは、いかがなものだろう。もちろん、私は「サザエさん」も「ちびまる子ちゃん」も「ドラえもん」も好きだ。愛着がある。だって、昭和生まれだもの。
でも、子どもを映画館に連れて来る大人の都合で、昭和的価値観のアップデートを邪魔してしまっていないか。昭和・平成の国民的アニメはもうよくないか? 今の価値観、いまの子どもたちのための、国民的アニメを育てていかなくては…。(ただ、劇場には孫と一緒に見に来たと思われる高齢者の方々もいて、世代間交流には有効なツールだとは思う。)
ちなみに、息子はポップコーンとドリンクを手に座席につき、「これはかんぺきにえいがだ!」とご満悦だった。上映中も声を上げて(子ども向けだしいいよね?)よろこんでいた。色々思うところはあったけれど、息子の非日常な『映画館体験』を楽しむ姿を見られただけで母はしあわせだった。
息子に見せるコンテンツについて、ジェンダー観に影響が…と心配もするが、親がすべての作品を検閲して渡すわけにもいかない。子どもが自分の趣味嗜好を選択できる自由があることは良いことだと思う(それでも多少検閲しちゃうけど)。時間のあるときは、女の子向けとされるプリキュアシリーズを一緒に観たりもしている。そのうち、『アリーテ姫』なんかも見せたい。もう少し大きくなったら性別的役割のお話もできたらいいな、と思う。
もしや、後退している??ドラえもん、バックラッシュ説
そんなことを考えながら、夜は『のび太の南海大冒険』(1998)を一緒に観た。そしたら、ちょっと驚くことがあった。
しずかちゃんが物語途中から、ズボンを履いている。映画の主要キャラの女の子もズボンだ。しかも、海賊の娘設定のその女の子は喋り方もキャアキャアしていない。声色も落ち着いていて、大人っぽい。判断も冷静で、強面の敵にも「キャー」とか叫ばない。男の影に隠れたりしない。襲い掛かる敵を勇ましく一本背負いで倒して見せ、「ドラえもんに出てくる女の子」らしくなかった。格好いい女だ。
映画終盤では、しずかちゃんが能動的にひみつ道具を使いこなし、活躍するシーンもあった。
…2024年のドラえもん、1998年よりも後退しちゃってない??
男女共同参画社会基本法が成立したのが1999年。このドラえもんは、そんな社会の機運を受けていたのかもしれない。
そういえば2000年代以降、若年層を中心に保守化が始まったという研究を読んだことがある。(以下は一例)2024年のしずかちゃんの能動性が奪われたのはそのせいなのか? もしかして、ドラえもん、バックラッシュを受けちゃった?
https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/19785302.pdf
もしかしたら、『ドラえもん』にも、フェミニズムの高まりやバッグラッシュの影響、ジェンダーへの関心などが時代によって反映されているのかも?
それはまた、別の機会に考えてみようっと。
そんなこんなで、とてもよい記事を読んだのでこちらも紹介したい。
わたし、小学生の頃、男子を制圧しようとする女ジャイアンだったことを告白します! ドラえもんのキャラクターに当てはめようとして気づいた。どちらかといえば、いじめっ子たちをこらしめようと手を上げるガキ大将で、高学年になってから急に男子に力で勝てなくなったのをよく覚えています。(すみれ)