宵々酒場で会いましょう #01 神ぐらの餃子

日が暮れて、路地に明かりが灯るころふとあの店の一品、あの一杯を思い出す。
ちょっと寄り道していこう、今宵もあの酒場で  

episode #01 神ぐらの餃子

目次

暖簾の先でめぐり逢う 人と酒と 

酒の神様に導かれ、日本酒に魅了されたのをきっかけに、好きが高じて酒蔵めぐりの著書日本酒ガールの関西ほろよい蔵さんぽ(2015年 コトコト刊)を出版。以来、今日にいたるまですっかり酒びたりの半生を過ごしてきた。※詳しいプロフィールはこちら。

これまで、主に京阪神などで、酒蔵や日本酒専門の飲食店を数多く飲み歩いてきた。
明るいうちからハシゴ酒できるなんて、呑んべえさんに羨ましがられてきたが、連日続けば身も削る…。時に過酷な呑み行脚。それでも、そこで出会ったお店や人とのご縁はかけがえのないものでした。

今宵は気楽な ひとり呑み

そのおかげで、普段から気楽なひとり呑みが定番である。
最近では、街でおひとりさまの女性客に出くわすことも多く、入りやすい店も増えた。楽しく盛り上がることも多いが、まれにからみ酒に戸惑う事もある。
酒呑み同士、お互い様。明日は我が身と自戒して、今では自衛する(自制する)術も得たけれど、ひとりで行くのが心許ないときもある。

そういう時、さっと助け舟を出してくれる店主に救われてきた。
店主の采配が行き届いていて、常連客も品良く居心地がいい。私の好きなひとり呑みはそれに尽きるのかもしれない。

そうした居心地の良さから、夜な夜な通ってしまう店がある。
その店の酒と肴が恋しくなって、気づけば足がむいている。

一見さんもおこしやす!
祇園の日本酒BAR酒房 神ぐら

京都人にとって、祇園はやはり特別な場所である。
観光客が押し寄せる店や、高価な料亭や老舗も多く、まだ行ったことのない店に冒険して入ることはほとんどない。誰かに連れて行かれるか、よっぽど信頼のおける人からの紹介でない限り、知らない店に足を踏み入れることがない。京都らしい〝一見さんお断り”がやんわりと漂う聖域に、恐る恐る足を踏み入れるようなーー。そんな花街の色が漂う黄昏時、ふらりと立ち寄る酒場がある。

京阪・祇園四条駅を降り、溢れる人だかりをかき分けて地上へ出る。
四条通を東山の八坂さんに向かって歩いていく。祇園花見小路通を北へ上がり、冨永町通を東に入ると、クラブやスナックが軒を連ねる、着飾った夜の街並みに、灯ったばかりの店の看板を見つける。
バブル時代の匂いが残るアミカビル。まばゆい金蘭の壁紙をあしらったエレベーターに乗って3階へ。
重い扉を開けば、癒しの酒場「酒房 神ぐら」へとたどり着く。

この店との出会いは、10年近く前、生粋の酒好きな巫女の先輩から情報を得たのがきっかけだ。その後、酒のイベントで女将のアツコさんと出会い、同い年とわかって一気に打ち解け、そこから店に足繁く通うように。

実は、この店ができる前、この場所に「花観酒房」という伝説の日本酒専門BARがあり、私も1度だけ呑みに行ったことがあった。そこが閉店して間も無く、日本酒の聖地を受け継いだのがアツコさんだった。

アツコさんは、お店をする前、伏見の酒蔵で蔵人として働いていた経験もあって、日本酒への造詣は深い。

置いているお酒は関西にとどまらず、全国から幅広い銘柄を揃えている。

おまけに、作る酒肴や料理はどれも酒呑みを唸らせる一品ばかり。さすが酒呑みの手料理に間違いはなし!

神ぐらと伝説の餃子

いつ頃だったろう。神ぐらに突如、餃子がお目見えしたのは。

数年前、アツコさんに「近くにできた食堂の餃子がめちゃ美味しい」と薦められ、帰りに寄ってみた。
食べてびっくり、確かに絶品。そこのお母さんが皮から手作りしていて、包む具材は菊菜、セロリ、ニラ、えび、パクチーなど多彩で、どれもあっさりと、かつ具材の風味や旨味が凝縮している。何個でもいける…やみつきに。それからというもの、神ぐらを経由したお客さんが2軒目に寄る定番の店となった。
そして仕舞いには、その店の親子と親しくなったアツコさんがお母さん直伝の調理方法を会得して、神ぐらでも提供されることになり、今では定番の一品となった。

その後、食堂は同じ東山区内に移転することとなり「親子食堂」として新装開店した。
実は、この食堂のお母さんは京都の餃子界隈では有名な人で、かつて伏見にあった人気店で餃子を作っていたらしく、当時、店の復活にファンたちが大喜びしたという。本当に伝説の餃子だったのだ。
今でも親子食堂とアツコさんとの親しい交流は続いている。

私のおすすめはぷりぷりの水餃子
(焼きも選べます♪)

季節によって6~8種類の餃子があるので、どの種類にするか迷ったら、全種類頼むべし。うっとり食べていたら、一瞬で胃の中へ消えてしまう。

口の中でつるりぷるりと、ほどける具材のスープ。
あゝ、お酒が進むよう〜。

合わせるお酒は、優しめの燗酒。程よい旨さが心地よく寄り添って、体も心もほどけていきます。

日本酒とプロレス餃子の王将ZAZYへの愛

ちなみに、店に飾られている餃子の王将グッズやZAZYのサイン、プロレスのマスクはアツコさんのあふれる愛の欠片。
足繁く王将に通い、近所にある祇園花月にはZAZYをはじめとする推しの芸人さんのライブに出かけている。そして、大のプロレスファン!

そんな噂を聞きつけた、プロレス好きな「一博(滋賀)の蔵元・中澤酒造のアニキとタッグを組んで、一昨年には日本酒イベントを開催。私もお手伝いして、お店でおふたりのプロレス愛がスパークしたのは良きおもひで。

神ぐらの酔狂画

さらに、私にとってここが特別な場所というのには理由がある。

7年前から、毎年2月の立春の頃に合わせて、「酔胡楽(すいこらく)」という3人のアートユニットで干支の絵を描くライブペイントを行わせてもらっている。(写真 左から私、書家・山根 一生、日本画家・宝樹(諫山恵実))

古くは絵師たちが酒宴で〝酔狂画〟に興じたことに憧れて始めた、3人のほろ酔いライブペイント。乾杯を合図に、3人で順番に1枚の絵を仕上げていく。お客さんたちとやんや やんやと雑談しながら、その場で絵が出来上がっていく様子を楽しんでもらい、一緒に杯を傾ける。

出来上がった干支画はそのまま、翌年立春まで1年間飾られている。楽しみにしてくれるお客さんたちにも恵まれ、つくづく縁の深い場所になった。干支が1周するまで、我らのイベントは続けていきたい。

今年の“辰“の干支画に込められた経緯は、産経新聞にも取り上げていただいた。
龍のように復興を 能登へ願い ほろ酔いアートユニット「酔胡楽」が辰画制作

願わくば、お店で現物をご覧あれ。お酒と共に、ゆっくりと楽しんでいただけたら嬉しい。

(photo:久保田狐庵)

祝10周年!

そして早いもので、神ぐらも今年で創業10周年!
なんと今年6月には、滋賀の琵琶湖汽船ビアンカにて「びわ湖日本酒クルーズ」と称した10周年イベントを開催予定。こんな機会は逃すまいと、常連さんたちと浮き足立っている。

我ら「酔胡楽」メンバーも我慢ならず、出演したいと願い出た。さらに、日本酒ガールとしてもイベントを盛り上げる企画を検討中
というわけで、イベント詳細はこれからSNS等でも発信されますが、お店で聞くのが一番早いわけで…
ぜひ、祇園は神ぐらへ、どうぞおこしやす。

酒房 神ぐら https://www.instagram.com/shubou_kagura/
京都市東山区祇園町北側282-6 アミカビル3階
OPEN 18:00-24:00 日曜定休

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この記事を書いた人

ルポ&イラストレーター。京都生まれ。淡い水彩画に文章を綴ったイラストエッセイなど、新聞連載をはじめ、雑誌・WEB等に寄稿。京都の〝お酒の神様〟を祀る神社にて巫女として奉職後、現職。著書に、酒蔵を巡り取材した「日本酒ガールの関西ほろ酔い蔵さんぽ」(2015コトコト刊)。日本酒にまつわる講座やイベント、ラベル制作などに携わる。現在、湖北と京都の二拠点生活。

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