日記「眠る酒に春を想う」松浦すみれ 

慌ただしく2月も過ぎゆき、湖北でも春の兆しが時折感じられる。
近所の明楽寺さんでは梅が見頃。あたりに甘い香りを漂わせていた。

手持ちの歳時記事典を開いてみると、この時期の季語に「二月尽」という季語を見つけた。まさに、これを書いている今日ではないか。「二月果つ」とも言うらしい。

ここで、(ちびまる子ちゃんの「友蔵、心の一句…」にならい、)
すみれ、心の一句ーー、

搾りたて封開けぬ間に二月果つ

今季買った搾りたての新酒が、まだ数本、冷蔵庫に眠っている。
この酒は誰と飲もうか、近く花見の時にでもと、来る時をわくわくしながら待ちわびている。

湖北の春は長いとばかり、うかうかしてると「三月尽」という季語もある。
まだ酒造り真っ只中の酒蔵では、日毎に様々な酒が仕込まれている。

酒蔵取材をライフワークとしている私にとって、年末から2月にかけては特に、日本酒の取材では貴重な時期である。酒造りの過渡期であり、月に2、3回、多くて週1回くらいのペースで酒蔵を訪ね、仕込みを手伝ったり、取材で勉強させてもらっている。

仕込まれた酒が搾られ、瓶に詰められるまで、頭で知り得た知識だけでは、到底理解できないような複雑な工程があって、何度も現場に足を運び、体験することでやっと自分に落とし込むことができるのだ。

写真:「萩乃露」醸造元、福井弥平商店さんでの酛摺り(2024.2.16撮影)

この時期は、新酒の鑑評会に出品するための大事な酒が調整される時期でもあって、ピリっとした緊張感が蔵内に走っている。こちらも改めて身が引き締まる。無論、呑む酒に、一層ありがたみがわく。

滋賀に住まいを持ってから、物理的にも酒蔵との距離がぐっと近くなり、滋賀の蔵元さん方々と親しいお付き合いをさせてもらっている。

そのおかげで、冬場はJR琵琶湖線から湖西線、近江鉄道を経由して、気づけば琵琶湖をぐるぐると日がな一周していることも多い。

とくに湖西線から見る、この時期の景色は素晴らしい。

3月でも、冷え込んだ日にはうっすらと、山々が粉砂糖をまぶしたかのように雪化粧している。

県外の出張から帰ってきたときには、琵琶湖や山々の情景ににホッと癒されている。

爛漫たる春まではもう少し、この季節の変わりの目のグラデーションを味わっていたい。

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この記事を書いた人

ルポ&イラストレーター。京都生まれ。淡い水彩画に文章を綴ったイラストエッセイなど、新聞連載をはじめ、雑誌・WEB等に寄稿。京都の〝お酒の神様〟を祀る神社にて巫女として奉職後、現職。著書に、酒蔵を巡り取材した「日本酒ガールの関西ほろ酔い蔵さんぽ」(2015コトコト刊)。日本酒にまつわる講座やイベント、ラベル制作などに携わる。現在、湖北と京都の二拠点生活。

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